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25 November

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25 October

一揆

いつも思うのだけど、まるで永遠に変わらずそこにあるように見えている人間の社会というものは、いたく簡単に壊れてしまうもので、平穏な日々というのは失ってから、その退屈の価値が骨身にしみるもので。

そんなわけで、先週の金曜日に始まった、地下鉄の料金値上げ問題に端を発した暴動で、ここサンチャゴは、非常事態宣言、夜間外出禁止令、街にはデモ行進する人が溢れて鍋を叩く音が鳴り響いています。

先週末から週明けは、暴徒化した人の略奪を恐れたスーパーが閉まり、開店後はスーパーは軍隊に守られながら入場制限がされたりしてましたが、一応我が家の周りではだいぶ平常化してきて、昨日行きつけのスーパーで普通に買物ができ、ありがたいなあと思いました。

が、それはサンチャゴが全体的に落ち着いてきたわけでなく、サンチャゴでも中心の裕福な地域に警官や軍が配置されているためで、むしろ郊外側は状態が悪化しているようで、テレビやSNSで隣近所同士で自警団を作って暴徒から自分たちの町会を守るというような事になっているようです。
それから地方でもデモや、警官や軍との衝突が増えていて、まだまだ予断を許さない状況が続いており、今週、来週と予定されていた新体操の大会は延期されることになりました。

全国大会や、海外での大会も軒並みキャンセルされている中で、国の一大事で、高速の料金所が燃えて空港に人が溢れかえっていても、ギリギリまで大会があると信じて行く気満々の新体操ママを見ていると、なんだかかほっとするというか、メンタリティ違うなーというか、なんというか。

なんとなく、日本人が地震に慣れ過ぎていてかなり揺れているのに日常を続けられるのに似てるのかな。チリ人の混乱に対するストレス耐性ハンパない。

ところで、日本での報道や、スペイン語わからないでテレビ見ていると、まるで外のチリ人が物凄く暴力的で、地下鉄に放火しまくったみたいに見えているけど、色々違うタイプの登場人物がいます。以下その一部。

1. 学生
今回無賃乗車デモの中心。チリではデモや軍や警察との衝突をよく起こす。バリケード、焚き火、火炎瓶投げなどで戦いなれている。
大学の前でもバリケード作ったりよくしていて、平時には勉強しないであんなことしてばかりいる、と言われている。

2.平和的にデモに参加する人
政治に異議のある普通の人。先生、アーティストなどが中心。組織的

3.カセロラソ
道で鍋を叩いて抗議している人達
デモより敷居が低い、窓から外に向かって叩く人もある。先日ピノチェ 時代に少年期を過ごした友人にデモに行こうといったら、カセロラソなら一晩でもやるけど、デモは昔の恐怖が思い出されるから行けないと言われた。
40代から上くらいの人には、独裁時代の恐怖体験がある。


4.略奪者
もともと泥棒ができる人達、モラルが低い人達が便乗してスーパーや薬局に押し入っている。
たぶん混乱に乗じて、モラルバーが下がっているというのはある。


5. 突発的に頭に血がのぼる一般人
女も男も直接口で負けない、口でダメなら手が出る、足が出る。警察や軍にも尻込みせず、ぶつかって行く人。若い時は1の学生だったりとか。やるときはやる人達


6.すぐ手を出す警察や軍
警棒で殴る、蹴る、威嚇で空砲を撃つ
それでもダメなら脚を撃つくらいは普通。ただ、略奪者や熱くなっている民衆を止めるという仕事をしているだけで制服を脱げば普通の市民である人が多い。(たまにやりすぎた暴行をしている動画が出ているが、これは人権侵害で弁護士協会が相談窓口作るとラジオで言ってた)
家族やいとこ、遠くの親戚に軍関係者がいる人も多い。
逆に独裁時代の負のイメージで制服だけで嫌悪する人も多い。
おそらく、ひどいビデオが出回ったため、軍側でも自粛を始めたのか、今度はフレンドリーなビデオが出始めたりして迷走している。
ちなみに、ピノチェ 時代はすぐ射殺されたのに、今は威嚇で脚を撃ってるだけだから、冷静だし、アンダーコントロール、まだ大丈夫だ、と近所のおじさんに言われたのにもびっくりした。
ここでも軍に対するストレス耐性が私達とは違う。


7.デモに嫌悪感のある人、すぐにベネズエラみたいになるという人
新自由主義の恩恵をうけている一部の層。最低賃金の値上げが自分たちのビジネスに悪影響を及ぼすからか、後ろめたさがあるからか極論をすぐ持ちだす。(でもほとんどのデモ隊の要求は直接彼らの不利益にならない)


8.全く関係ないのに絡まれる人
ハイチ人、ベネズエラ人など、法的に認められた最低賃金をさらに値切られているのに、
「お前たちもタイヤ燃やしたのか」とか、「略奪行ったのか」とかハラスメントを受ける人達。この間その現場に居合わせたので、「タイヤ燃やすのはチリ人だけ。あたしたちは燃やさないよね〜」と私が言って大ウケしたが、それは私が日本人だからで、ハイチ人やベネズエラ人が言ったら絡まれる。


9.組織的な人達?
SNSでは、あんなに同時に地下鉄を効果的に攻撃できるのは組織的な犯行だという人がいた。地下鉄を燃やすなんて普通の個人には大それすぎてできないとも。どんな組織なのか不明。
地下鉄の監視カメラ画像が出ないのも怪しいとの声。何が怪しいのかは推して知るべし。


基本的に普通のチリ人は破壊行為には怒っているし、略奪も、それデモじゃなくて犯罪だとみんな思っている。
そんなことしても何にもならないじゃないか、チリの恥だという人が大半。

ただ、それでも暴動や破壊行為が止まらないのは、一方で、最低賃金が、生きていくことができないくらい低い、人間の尊厳を保てないレベルで、教育、医療、年金についての不平等、水、光熱費、運賃等々、すでに略奪者は議会にいるからそれを取り返して何が悪い、という人もいるから。

実際、薬局が略奪されているのは、チリの現実を如実に映していると思う。おばあさんが、年金では糖尿病の薬が買えないとテレビで泣きながらうったえていたけど、略奪されて燃やされた薬局に、「無料の薬はここ」という張り紙がされていたのが見えた。

不平等と言えば、地方にはろくな病院がない。南には眼科がないと聞いたことがあるし、北には癌の治療ができる病院がないとか、子供の入院できる施設がないとか。

サンチャゴには小児の骨髄移植をすることができるチリ唯一の国の病院があって、そこに地方から治療に小児癌のこどもが集まってくるんだけど、入院費、手術費は無料なんだけど、そこで使うコットンとか、シーツとかいわゆるインスーモという消耗品は全部有料で、義足を買ったりするお金がないとか、病院に家族が宿泊できないし、家族が費用の問題でサンチャゴで滞在できないとかきいたことがある。

私立の病院に不自由なくかかれるのは人口の一割以下なんではなかろうか。調べたことないけど。

道で失業している人と話す機会も増えた。
この間も、80くらいのハサミを持って座っているおじいちゃんに、声をかけられた。
みなりのしっかりした丁寧な紳士のおじいちゃんだったけど、
このハサミでお宅の庭の芝を刈るから芋を買うお金をくれないか。と言われた。あきらかに街で困っている、年金だけで食べていけないから道で何かを売っているというお年寄りを見ることが増えた。

消費税19パーセントも払っているのに、さらに本にまで消費税かかっていて、馬鹿みたいに高くて、教科書だって一年分で30000円も40000円もするのに、国は一体何をしてるんだろう?と、スペ語カタコトの私ですらわく疑問。

高い大学の授業料のローンに苦しむ若者も増えた。あんなの普通のチリ人のましてや子沢山の親が払えるわけがない。

今年の大干ばつで水がなくてバタバタヤギが何匹も死んでいて、ヤギを飼っている農家のおじさんが泣いているのをニュースでみたばかりなのに、今回のストが起きて上流にある企業が運転を停止したら川に水が戻ったらしい。水道の民営化とはそういうことらしい。

大企業が毒を垂れ流し、周りに住む人達が公害で苦しんでも、子供が病気になっても、
海で魚が死んで、漁師が苦しんでも
国は企業を止めるわけでなく、何も変わらず、苦しんでいる人に何もしてこなかった。


一部一握り、以外のふつうのチリ人はずっと新自由主義の生み出した無慈悲な貧富の格差、富のパワハラに耐えてきた。
格差といえば自然に発生したようにきこえるけれども、これは金による暴力だ。


それなのに、良くなるのではなく悪化、度重なる値上げ、政治家たちの汚職など、キレる要素は正直いっていくらでもあったと思う。


だから、愛は地球を救う、みたいなテレトンで有名なドン・フランシスコが、
「チリの同胞にこんなに怒りがあったなんて知らなかった」と言って、大炎上していた。
知らないわけなかろう。
スペイン語カタコトの私ですら知っていたのに。


チリ人はわりかし我慢強い。南米人にしては何時間もラーメン食べるのに並んで待つような、我慢強い人達だと思う。

海外に行って他の国を見たりできるようになって、日本に行ってラーメン食べてきた、漫画が大好き、そんな普通のチリ人が立ち上がって街に出ている。
(このまま夜間外出禁止令が続いたら、飲食店は軒並み潰れてしまう)

夜間外出禁止令と、強行姿勢で
「チリは戦争だ」と宣言した大企業優遇の、大金持ちのピニェラ大統領のニュースは世界のニュースでも取り上げられた。
これに反応して
「私たちは戦争してない、団結しただけだ」というメッセージがSNSに溢れて、世界でも頑張れチリデモが立ち上がり、戦争宣言する大統領と平和的に団結アピールする民衆という絵をさらにこくしてしまった。

働き手がいなければ企業も動かない、工事も進まない。物流が滞ればたちまちサンチャゴは干上がってしまう。色々な改善要求を出す色々な組合がどんどん団結している。
今夜も最大規模のデモの呼びかけがされている。調査では80%以上のチリ人が抗議デモを支持しているのだそうだ。

失業者は増えてAPEC どころか、大混乱が起きてしまう。このまま長引けば不利なのはピニェラに見える。
だって立ち上がった人達には失うものは何もないし、略奪者のおかげ?で、近所で自警団を作ったり、年齢や目的を超えてこんなに団結したのは、初めてぐらいに団結しはじめてるらしい。
そう簡単に引き下がりそうにない。

そういえば、昔チリ人のスペイン語の先生に聞いた話。
ペルーあたりでスペイン人にあっさりとインカが滅ぼされたのに、マプチェやチリの先住民族たちがその後も滅ぼされずに生き残ったのはなぜかというと、
インカは中央集権でシステマティックに国が出来上がっていたため、スペイン軍がインカの王を殺してしまったらあとは簡単だったと。

でも、マプチェ達は、いろんなクランが別々に行動していて、一つを潰しても次から次に次の王を名乗るものが出てきて、終わりがなかった。だからスペイン人があきれて諦めたと言っていた。彼らの忍耐強さはそんな歴史や血もあるのかもしれない。

そんなわけで、全然まとまりありませんが、

怒りと不安と、期待
日常を死守しようとする人々


それが今私に見えているチリの姿です。

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